特集:林竹二の描いた軌跡・・・ 学び続ける教師の原点①

教育

2019年11月27日

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 本年7月8日(月)から8月10日(土)まで、宮城教育大学附属図書館の展示ホールで、企画展「学び続ける教師を育てる」が開催されました。この企画展は、本学の教育の基盤をつくった第三代学長 林竹二と、林学長とともに教員養成教育の構築に尽力した斎藤喜博教授、高橋金三郎教授の思想と業績に焦点をあてたものです。
 教育そのものの方向性や環境が大きく変化している中で、この展示にはどのような意義があったのでしょうか。林先生たちから何を今学ぶ必要があるのでしょうか。
 本特集では、この問いの答えを、村松隆学長のエッセイと企画展監修者・吉村敏之教授へのインタビューから探ります。インタビューは、附属図書館で学修サポーターをつとめる学生2名が担当しました。

本学の最大の魅力 林 竹二先生

   林先生の教えのそばに在ることは、私たちの最大の幸福である。

                        宮城教育大学長 村松 隆

 宮城教育大学が最も誇りとするもの、最大の魅力は何か?と問われたら、迷うことなく「林竹二先生」と答える。それほどに大きな存在であることは、半世紀を過ぎても変わらず、これからもそうであろう。が、誠に恥ずかしながら、私は本学着任時、林先生をあまりよくは知らなかった。学長を退かれて5年経った頃であるが、汗顔の至りであることこの上ない。そしてその存在を意識したのは、当時私が尊敬していた本学A教授が「林先生は、僕の最も尊敬する人」と言及されたことからである。A教授は、大学紛争当時の林学長が学生に向け発せられた学長声明を大事に保管しておられた。
 それは涙あふれるものであった。以来、林先生の多くの軌跡を追いかけることになるが、そこには、教育とは何か、教員養成大学はどうあらねばならないか、教師にとって大事なことは何か、という根源的な問いへの明確な答えが示されていた。他者ではまねのできない教育哲学、深い理念が存在し、一言一言が心の奥深くに定着し、離れない。
 教育とは全人格的なものである。当然ながら単に知識を修得するだけでなく、人間として大事なことを正しく理解し、人間性を高めるものである。哲学が必要である。高邁な教育哲学を有し、実践しておられた林先生の教えのそばに在ることは、宮城教育大学に籍を置く私たちの最大の幸福である。学生諸君におかれては、今も、これからも、ぜひ林先生と共に進んで行ってほしい。そう、心から願うものである。

企画展会場にて  村松 隆 学長

インタビュー 林竹二から学ぶこと 企画展監修者 吉村敏之教授に聞く

――展示「学び続ける教師を育てる」の企画の意図を教えてください。

 今、教職を取り巻く環境が非常に厳しくなっている中で、宮教大は「学び続ける教師」の育成を大学の進むべき道であり、使命としています。その原点が、本学の第三代学長であった林竹二、ともに教師教育改革を進めた、斎藤喜博と高橋金三郎の積み上げた数々の財産にあるんですよね。そこで、宮教大の輝かしい財産に、教育の未来を担う若い学生・院生のみなさんが改めて目を向けて、宮教大ならではの特徴ある伝統を深く学んでほしいと願いました。さらに、教師の仕事の魅力を広く世の中に示したいと思いました。

教職大学院教授 吉村敏之 専門研究領域は教育実践史、授業研究

附属図書館で学習サポーターをつとめる2人がインタビューしました。
・教育学部教育学コース4年 古仲 隼也さん(左)
・大学院国語教育専修1年  我妻 眞衣さん(右)
<学習サポーターとは?>

 図書館のカウンターにて、図書館の効果的な利用法や、大学での勉強の仕方など、
 みなさんの学修のお手伝いをします。お気軽にお声掛けください!

林 竹二

――林先生はどのような考えを持ち、何をされたのでしょうか。

 まず簡単に教育の歴史を見ますと、明治から太平洋戦争敗戦までは、教員養成を現在の高校よりもちょっとレベルが高い程度の師範学校で行っていました。日本の近代化は、富国強兵を目指してとにかく急速に国の力を強めようとしたため、師範学校での教員養成は、国で決めた内容をいかにうまく子どもに伝えるかが重視されました。教師は、国から命じられたことに従う存在だったのです。それではいけないと考えたのが林先生でした。教師の仕事は、目の前の子ども一人ひとりの内にある宝物を引き出すことであると捉えたのです。そして、学問に根差して教師の専門的な力を身につけさせる場所が大学であると考え、いろいろな改革を進めたのです。

――改革とは具体的にどのようなものだったのでしょうか。

 林先生が学長となった当時、学生紛争が全国的に広がりました。宮教大も、1965(昭和40)年に東北大学教育学部から分離独立して、大学で教員を育てるという理念でできたはずなのに、きちんと教員養成をしていないという、学生の異議申し立てがありました。大学によっては学生の行動を機動隊など力で抑える動きがありましたが、林先生は、学生が封鎖した校舎に自ら入って話し合いで解決に導きました。そして、教員と学生が対等に、教育と研究という共通の課題に向き合う討論の場として全学集会を開きました。また、大学を統轄する学長の権限は、教職員や学生の絶えざる批判のもとに行使されるべきであると、いわゆる「リコール制」を制度化しました。学生が主体的に学ぶ環境を作り、特に小学校の教員養成に力を入れました。

学生紛争に対する学長声明(左) 全学集会と学長リコール制の制度化(右)

――なぜ小学校の教員養成に力を注いだのでしょうか。

 林先生は、小学校の教員ほど難しいものはないと考えていました。「人間について」の授業の元になるゼミナールを宮教大でやった際に、大学生相手ならば半年ぐらいもった内容が、小学生には通用しないというのです。レベルを下げるのではありません。本当に子どもが夢中になって追究するよう授業を組織するには内容に無駄があってはいけない。教材は決定的なものを選りすぐらなければならない。だらだらとしたら飽きられるので、瞬時にパッと子どもの心に入るようにしなければならない。そして子どもが食いつくタイミングを逃さず捉えなくてはいけません。だから、小学校の教員は、高度の専門性が求められます。それに応えるよう大学の改革が必要だと林先生は考えたのです。

小学校教員養成の改善案

授業とは?教師とは?

――林先生は、小学校などでご自身も授業をなさったということですが、なぜ実際に授業を行うようになったのでしょうか。

 林先生は、もともと「学ぶことはどういうことか」を哲学者として研究していました。実際に授業の中で子どもが学ぶ姿に触れてみたいと小学校で授業を始めました。もちろん教育大学の学長として現場を体験するという使命感もあったでしょう。附属小学校での授業が皮切りでしたが、林先生が目を開かされたと語るのが福島県郡山市の白岩小学校でのことです。小学校教員こそ学問が要ると大学院で学んだ教え子が担任をしていた学級で、林先生は授業をしました。そこでの子どもの心の優しさ、細やかさが表れた感想文に非常に感動するんです。そして、授業に病み付きになり、全国の学校で「授業巡礼」をしました。

――林先生はどんな授業を行ったのでしょうか。

 神戸の湊川高校でのことです。差別や貧困の中で義務教育から切り捨てられた生徒たちを教師たちが見捨てることなく受け入れた学校でした。しかし心に負った傷が深く、先生に手を出したり、授業が面白くないと抜け出したりする生徒もいました。「低学力」とされた生徒に、林先生は「人間について」の授業を行います。人間という存在は、人として生まれただけでは人間にはなれない、人間の社会で人間になるための教育を受けて、本人が人間になろうというを選び、人間になるための勉強をして人間になる。人間の学ぶ意味を考える授業をしたんです。すると、生徒たちの心に本当に深く入り、学びたいという純粋な欲求が生じたのです。自分をかけて深く学ぶことによって変わる、その事実が生徒の内面にありました。

「開国」の授業草稿

――林先生は、授業や教師自体をどう考えていたのでしょうか。

 湊川高校での林先生の授業で、生徒たちは学ぶことの意味に目覚めました。教師たちも、生徒の姿を見て授業の改善に努めました。生徒一人ひとりの内には自分を変えていく力があります。教師たちの生徒たちとのかかわりの積み重ねもあった上でのことですが、授業には生徒を変える力があるんですね。林先生は、授業は子ども一人ひとりが深くしまいこんでいる宝物を引き出す手助けをするものであると、事実をもとに言い続けました。そして、授業を行う教師には、子どもの心が見えること、心の内にかすかに動いている言葉にならない思いを感じ取り、一人ひとりの可能性を開花させることが求められるというのです。教師の仕事とは、体の世話をする医師よりもはるかに困難な魂の世話であるとし、高度の専門性を養おうとしたのです。

「人間について」授業感想文 郡山市立白岩小学校6年生「人間について」授業感想文 兵庫県立湊川高等学校

                                (次回につづく



林 竹二( はやし たけじ)
東北大学教授を経て本学第三代学長へ(1969-1975年)
教師教育改革、教育実践に晩年まで尽力


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